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熊本と福岡、どちらで働くか。熊本の給与は2年続けて全国を上回る伸び、それでも平均年収は福岡が約37万円高い

寺木 健人
監修:寺木 健人転職・キャリア担当・人材業界出身
公開

熊本出身で福岡で働いている人、熊本で働きながら福岡への転職を考えている人にとって、ここ数年の熊本の変化は気になるところだと思います。台湾の半導体大手TSMCの工場が菊陽町で動き出し、「熊本の給料が上がっている」「熊本に仕事が増えている」という話を聞く機会が増えました。では、今から福岡に出る意味はまだあるのか。逆に、福岡から熊本に戻るのは得なのか。

結論から言うと、熊本の給与の伸びは本物で、2024年は4.4%、2025年は5.6%と、全国(2025年は2.3%)を上回っています。ただし平均年収の水準では、今も福岡が約37万円高い。そして有効求人倍率は2022年度をピークに下がり、2025年度は全国を下回りました。「熊本に仕事があふれている」という状況ではありません。ただし、大企業どうしで比べると年収の差は約9万円しかなく、製造・技術系の仕事なら熊本の選択肢は確実に広がっています。どちらを選ぶかは、職種でほぼ決まります。

このコラムでわかること
  1. 熊本の給与はどれだけ上がったか
  2. それでも、年収の水準は福岡が上
  3. 求人は、増え続けているわけではない
  4. 初任給は、会社によって大きく違う
  5. 住まいと生活費は、熊本がやや有利
  6. 人の流れは、今も熊本から福岡へ
  7. 2026年7月の地震について
  8. どちらを選ぶかは、職種で決まる
  9. よくある質問
  10. 「熊本に戻る」が、以前より現実的な選択肢になった

熊本の給与はどれだけ上がったか

熊本県の毎月勤労統計調査(事業所規模5人以上)で、1人あたりの現金給与総額(月平均、賞与を含む)の推移を見ます。

年現金給与総額(月平均)前年比
2022年28万1,712円−0.2%
2023年28万6,192円+1.6%
2024年29万8,691円+4.4%
2025年31万5,574円+5.6%
参考: 全国 2024年34万7,994円+2.8%
参考: 全国 2025年35万5,941円+2.3%

2024年と2025年に、はっきりと伸びが加速しています。2024年は全国(2.8%)を上回り、2025年の伸び(5.6%)は全国(2.3%)の2倍以上です。製造業に限ると、2024年は前年比12.4%の大きな伸びでした(熊本県の年報による)。

労働政策研究・研修機構(JILPT)も、2020年7月から2024年7月にかけての製造業の所定内給与(残業代などを除く月給)の上昇率が、熊本県は21.7%で全国1位だったと紹介しています。ただし、この記事はTSMCの工場の影響があったかどうかは断言できないとしています。

一方で、2026年に入ってからの伸びは落ち着いています。2026年1〜6月の現金給与総額の前年同月比は−0.4%〜+5.2%、所定内給与は−0.1%〜+1.5%でした。急な上昇の局面は、いったん一巡したと見るのが自然です。

(注: 2024年1月に調査対象の事業所が入れ替わっているため、年ごとの金額どうしを差し引いた伸びは、上の表の前年比と一致しないことがあります。前年比は県の公表値です)

それでも、年収の水準は福岡が上

伸びは大きくても、元の水準に差があります。ここからは、年収の水準を比べるのに向いている賃金構造基本統計調査(2025年、企業規模10人以上・フルタイムの一般労働者)で見ます。年収は所定内給与×12+年間賞与の推計です。毎月勤労統計とは対象も定義も違うため、上の表の金額とは直接比べられません。

福岡熊本差
平均年収(全体)約466万円約429万円約37万円
20代約362万円約335万円約26万円
30代約448万円約406万円約43万円
40代約504万円約468万円約36万円
50代約545万円約507万円約38万円

どの年代でも福岡が26〜43万円高く、差が最も大きいのは30代です。

ただし、会社の規模をそろえると景色が変わります。

企業規模福岡熊本差
1000人以上約546万円約537万円約9万円
100〜999人約453万円約421万円約32万円
10〜99人約405万円約374万円約31万円

1000人以上の企業どうしでは、熊本と福岡の差は約9万円しかありません。九州の他の県と比べても、熊本の大企業の年収水準は福岡に最も近い水準です(九州7県の比較は九州7県の平均年収ランキング)。熊本で大きな会社に勤められるなら、年収の面で福岡に出る理由はかなり小さくなります。逆に、中小企業どうしでは今も30万円前後の差があります。

求人は、増え続けているわけではない

「熊本は人手不足で仕事がいくらでもある」というイメージは、数字とは合いません。熊本労働局の有効求人倍率(年度平均)を見ます。

年度熊本全国
2019年度1.57倍—
2020年度1.19倍1.10倍
2021年度1.35倍1.16倍
2022年度1.42倍1.31倍
2023年度1.30倍1.29倍
2024年度1.22倍1.25倍
2025年度1.15倍1.20倍

熊本の有効求人倍率は、コロナ禍で下がった後の2022年度の1.42倍が直近のピークで、その後は下がり続け、2024年度以降は全国を下回っています。2026年7月(季節調整値)は1.20倍(全国1.18倍)、正社員に限ると1.08倍です。

一方で、半導体に関わる求人そのものは動いています。2026年7月の新規求人のうち、電子部品・デバイスの製造業は247人で、前年同月より50.6%増えました。全体の求人が増えているのではなく、特定の分野に求人が集まっていると読むのが正確です。福岡の求人の動きは福岡の採用市場レポートで確認できます。

初任給は、会社によって大きく違う

熊本の話題になると、TSMCの子会社JASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)の初任給がよく取り上げられます。JASMがマイナビ2027に出している募集要項では、大卒・高専卒の基本月額は29万円、修士は33万円です(2025年4月に見直した後の額。報道でよく見る「大卒28万円」は見直し前の額です)。

これに対して、賃金構造基本統計調査(2025年)の大卒の初任給(所定内給与)は、熊本県が約24.8万円、福岡県が約25.4万円です。JASMの初任給は、県の平均より4万円ほど高い水準にあります。ただし、これは1社の話です。熊本で働く人の大半は、県の平均の側にいます。県別の初任給は調査の対象者数が公表されておらず、年によるぶれもあるため、目安として見てください。

住まいと生活費は、熊本がやや有利

家賃は熊本のほうが安く、住宅・土地統計調査(2023年)の民営の賃貸住宅の平均家賃は、熊本市が月約5万2,300円、福岡市が月約5万9,200円です。年間にすると約8万円の差です。

一方、家賃以外の物価は熊本のほうがわずかに高く、消費者物価地域差指数(2025年、全国=100)では、家賃を除いた物価が熊本県100.8、福岡県99.1です。家賃を含めた総合では、熊本市99.8、福岡市99.3とほぼ同じ水準です(九州全体の比較は九州7県の家賃相場と物価)。

また、工場の周辺では住まいのコストが上がっています。熊本県の地価調査の概要によると、2024年の都道府県地価調査で、大津町の商業地・工業地の地点の上昇率(33.3%)は全国の全調査地点で1位、菊陽町の商業地の地点(32.5%)は同4位でした。菊陽町や大津町の近くに住む前提なら、2023年の家賃統計より高めに見積もっておくのが安全です。

人の流れは、今も熊本から福岡へ

住民基本台帳人口移動報告(2025年)では、熊本県から福岡県への転入は8,484人、福岡県から熊本県への転出は7,295人で、差し引き約1,200人が熊本から福岡へ移っています(外国人を含む。日本人に限ると約1,500人)。

高校を卒業して就職する人のうち、熊本県内で就職した人は65.7%で、福岡県で就職した人は9.8%でした(学校基本調査、2025年3月卒)。大学に進む人では、熊本の高校出身者の17.0%(1,254人)が福岡県内の大学に入学しています。

ただ、変化もあります。日本銀行熊本支店は2026年4月のレポートで、熊本県の20〜24歳の転出超過率が10年前より縮小していることを示し、半導体関連や建設関連の労働需要が高まったことが背景にあるとみています。「熊本に残る」という選択が、以前より現実的になっているということです。

2026年7月の地震について

2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7を観測しました(気象庁は「令和8年熊本地震」と命名)。日本銀行熊本支店は9月4日、県内の景気判断を「令和8年熊本地震の影響により、足踏み状態となっている」に引き下げています。

この記事の数字の多くは地震の前の時点のものです。2026年7月以降の求人や賃金の統計には、地震の影響が含まれてきます。熊本での仕事を考える際は、最新の統計や、働きたい業界の状況をあわせて確認してください。被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。

どちらを選ぶかは、職種で決まる

ここまでの数字を、判断に使える形でまとめます。

製造・設備・技術系の仕事なら、熊本は有力な選択肢です。大企業どうしなら年収差は約9万円で、半導体関連の求人は増えています。家賃は年8万円ほど安く、地元なら実家から通える可能性もあります。福岡の製造業の状況は福岡の製造転職ガイドにまとめています。

事務・営業・企画系や、IT・Web系の仕事なら、福岡のほうが選択肢は多いと考えられます。熊本の求人の伸びは半導体・製造に偏っており、全体の求人倍率は全国を下回っています。九州各県の求人の特徴は九州の転職市場で整理しています。

年代で見ると、30代が最も年収差の大きい時期です(約43万円)。30代で熊本に戻るなら、同じ規模の会社を選べるかどうかで、年収の結果が大きく分かれます。

よくある質問

Q. 熊本の給料は、福岡より高くなったのですか?

伸び率では熊本が上回っていますが、水準はまだ福岡が上です。賃金構造基本統計調査(2025年)では、平均年収は福岡が約466万円、熊本が約429万円です。1000人以上の企業どうしでは差が約9万円まで縮みます。

Q. 熊本は今も人手不足ですか?

有効求人倍率はコロナ禍後、2022年度の1.42倍を直近のピークに下がり、2025年度は1.15倍と全国(1.20倍)を下回りました。ただし、電子部品・デバイスの製造業の新規求人は2026年7月に前年同月比50.6%増えており、分野によって状況は違います。

Q. 福岡から熊本にUターンすると、年収は下がりますか?

県の平均どうしでは約37万円下がる計算ですが、同じ規模の大企業に移れば差は約9万円です。家賃は年約8万円下がるので、大企業どうしの移動なら手元に残る額はほぼ変わらない可能性があります。職種と会社の規模をそろえて比べるのが確実です。

Q. JASMの初任給はいくらですか?

マイナビ2027の募集要項では、大卒・高専卒の基本月額が29万円、修士が33万円、博士が38万円です(2025年4月の見直し後)。

「熊本に戻る」が、以前より現実的な選択肢になった

熊本の給与は2年続けて大きく伸び、大企業の年収水準は福岡とほぼ並びました。一方で、平均で見れば福岡がまだ上で、求人の増加は特定の分野に偏っています。

熊本と福岡のどちらで働くかは、「熊本は景気がいいらしい」「福岡のほうが給料がいいらしい」という印象ではなく、自分の職種と、狙える会社の規模で決まります。条件をそろえて比べると、どちらが自分に合うのかが見えてきます。迷ったときは、ひとりで決めずに誰かと数字を並べてみるのも一つの方法です。

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