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会社員のまま起業する。副業規定と法人設立の整理

久保 塁
監修:久保 塁起業・独立担当・現役経営者

「会社を辞めてから起業する」は、実はもっともリスクの高い順番です。収入がゼロになった状態で、事業の検証と資金繰りと生活を同時に始めることになるからです。

結論から言うと、会社員のまま起業する(=在職中に事業を立ち上げ、軌道が見えてから辞める)ほうが、生存率も精神的な余裕も高い。法的にも、副業禁止規定は多くの場合「懲戒の根拠」であって法律上の禁止ではありません。とはいえ実務の論点はあります。この記事では、就業規則の読み方、法人を作る場合の見え方、そして辞めどきの基準を整理します。

このコラムでわかること
  1. 就業規則をどう読むか
  2. 個人事業で始めるか、法人を作るか
  3. 住民税から知られる経路
  4. 在職中にやるべきこと
  5. 辞めどきの基準
  6. よくある質問
  7. 順番を変えるだけで、リスクは大きく下がる

就業規則をどう読むか

まず確認するのは、副業に関する条項が「禁止」なのか「許可制」なのか「届出制」なのかです。多くの企業は許可制または届出制で、全面禁止でも、実際の運用は競業や本業への支障を問題にしています。

引っかかりやすいのは3点。競業(勤務先と同じ顧客・同じ商材を扱う)、本業への支障(勤務時間中の作業、睡眠不足による支障)、会社の資産の使用(PC・顧客情報・ノウハウの持ち出し)。この3つを避ければ、実務上の摩擦は大きく減ります。逆に、この3つのどれかに触れていれば、規定が緩くても問題になります。

公務員は法律上の制約が別にあるため、同じ前提で考えないでください(公務員から民間へ)。

個人事業で始めるか、法人を作るか

在職中の立ち上げは、まず個人事業(開業届)で始めるのが基本です。理由は3つ。手続きが軽い、維持コストがほぼゼロ、そして畳むのも簡単。検証段階では身軽さがそのまま速度になります。

在職中に法人を作る場合の論点は次のとおりです。

登記は公開情報です。役員として登記されれば、調べれば分かります。隠したい場合、法人設立という選択自体が合いません。社会保険は、勤務先で加入したまま、自分の法人から役員報酬を取ると二以上事業所勤務の届出が必要になります。役員報酬をゼロにする設計なら、この論点は回避できます(法人に利益を残す形)。税務は、給与所得と事業所得(または法人)で申告が分かれます。

つまり、在職中に法人を作るなら「役員報酬ゼロ」が実務上の定石です。ただし社会保険や税の扱いは制度改正もあるので、必ず税理士・社労士に確認してください。

POINT

検証段階で必要なのは法人格ではなく、売れた実績。会社は、必要になったときに作れば間に合う。

住民税から知られる経路

在職中の副業でもっとも多い「バレ方」は、住民税の額です。給与から特別徴収されている住民税に副業分の所得が乗ると、給与額と釣り合わない住民税額になり、経理が気づくことがあります。

確定申告で住民税を「自分で納付(普通徴収)」に切り替えると、事業所得分は自宅に納付書が届きます。ただし自治体の運用差があるため、確実性を求めるなら市区町村に確認してください。詳しくは副業が住民税でバレる仕組みにまとめました。

なお、隠すことを目的にすると設計がゆがみます。届出制なら出す、許可制なら申請する——正面から通したほうが、辞めるときも気持ちよく辞められます。

在職中にやるべきこと

在職中の期間は、資金と時間のトレードオフです。時間は足りないが、収入と信用がある。この条件で優先すべきは次の3つ。

実績を作る。売上の規模より、「お金を払ってくれた人がいる」という事実が重要です。融資審査でも、家族の説得でも、この事実がいちばん効きます。

自己資金を積む。毎月の積み立て履歴が、そのまま創業融資の自己資金の説明材料になります。

信用の要る手続きを済ませる。住宅ローン、賃貸契約、カード。会社員の信用は退職と同時に消えます(起業準備のやることリスト)。

辞めどきの基準

「いつ辞めるか」は感覚で決めがちですが、数字で決められます。実務でよく使われる基準は3つ。

①副業の月商が、生活費の一定割合を超えた。半分を超えたあたりから、辞めた後の資金の減り方が大きく変わります。②時間がボトルネックになった。「本業を辞めれば受けられる仕事」が積み上がっている状態。ここまで来ると、辞めないことが機会損失になります。③12ヶ月分の生活防衛資金が貯まった起業前の貯金はいくら必要か)。

この3つが揃ったら辞めどき。逆に、ひとつも満たしていない段階で辞めると、事業ではなく資金繰りと戦うことになります。

よくある質問

Q. 副業禁止の会社で起業したら、解雇されますか?

就業規則違反として懲戒の対象になり得ますが、本業に支障がなく競業でもない副業を理由とする重い処分は、裁判例上は制限的に判断される傾向があります。とはいえ争いになること自体が損なので、届出・許可のルートがあるなら使ってください。個別の判断は弁護士へ。

Q. 会社に知られずに法人を作れますか?

登記は公開情報なので、調べられれば分かります。知られたくないなら個人事業で始めるほうが整合します。

Q. 確定申告は必要ですか?

給与以外の所得が一定額を超える場合は必要です。金額基準と例外があるので、税務署または税理士に確認してください。

Q. 副業の売上が少ないうちは開業届を出さなくてもいいですか?

青色申告の特典を使うには開業届と承認申請が必要で、承認申請には期限があります。出しておくデメリットは小さいので、事業として続ける意思があるなら早めに。

Q. 法人にするなら、どの形が多いのですか?

福岡市の新設法人3,577社(2025年)のうち、合同会社が976社=27.3%を占めます。2016年は14.3%だったので、10年で比率が倍近くになりました(福岡市 会社設立データ)。設立費用と維持コストを抑える選択が広がった結果です。ただし在職中に始めるなら、まず個人事業で売上を立てるところからで足ります。法人化は利益が出てからで間に合います。

順番を変えるだけで、リスクは大きく下がる

同じ事業でも、「辞めてから始める」と「始めてから辞める」ではリスクがまったく違います。後者は、失敗しても失うのは時間だけです。在職中の検証は、事業計画のどんな精緻化よりも確実な保険になります。

自分の場合、どこまで在職中にやれるか。福岡で実際に創業した経営者に無料で相談できます。副業の段階でも構いません。

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