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転職か起業か迷ったら。判断を分ける5つの質問

寺木 健人
監修:寺木 健人転職・キャリア担当・人材業界出身

いまの会社にこのままいる未来が見えなくなったとき、出口は2つ見えます。別の会社に移る転職と、自分でやる起業です。どちらも「いまを変える」という意味では同じに見えますが、実際には求められる準備も、向いている人も、失敗したときの戻り方も全く違います。

結論から言うと、この迷いに正解を出す近道は「どちらが稼げるか」ではなく、自分の不満の正体がどこにあるかを突き止めることです。以下の5つの質問に順番に答えていくと、自分がどちら寄りなのか、あるいはどちらでもないのかが見えてきます。紙とペンを用意して、書きながら読むことをお勧めします。

このコラムでわかること
  1. 質問1: 不満の相手は「会社」か「雇われ方」か
  2. 質問2: 「やりたいこと」は事業か、職種か
  3. 質問3: 収入が不安定な期間に耐えられる家計か
  4. 質問4: 失敗したときの「戻り道」を描けるか
  5. 質問5: どちらの5年後に、より納得できるか
  6. 第三の道——「社内」を再設計するという選択肢
  7. 性格と向き不向き——自己診断の4項目
  8. よくある質問
  9. 迷っている段階の相談先を持つ

質問1: 不満の相手は「会社」か「雇われ方」か

最初の質問がいちばん重要です。いまの不満は、この会社に対するものでしょうか。それとも雇われて働くこと自体に対するものでしょうか。

給与、上司、評価、事業内容への不満は、会社を替えれば解消する可能性があります。これは転職で解決できる種類の不満です。一方、「決められた時間に決められた場所へ行くこと」「自分が正しいと思う方法で仕事を進められないこと」「成果が自分の取り分に直結しないこと」への不満は、どの会社に移ってもついてきます。これは雇われ方への不満で、起業でしか解消しません。

POINT

会社への不満は転職で消える。雇われ方への不満は、どの会社に移ってもついてくる。

見分けるための補助線をひとつ。過去に会社を移った経験があるのに、同じ種類の不満が再発している人は、後者の可能性を疑ってみてください。逆に、初めての会社で他を知らない人は、不満が「この会社固有」なのか「会社というもの一般」なのか、まだ判別できる材料がありません。その場合、いきなり起業に跳ぶより、一度転職して比較対象を持つほうが、判断の精度が上がります。

質問2: 「やりたいこと」は事業か、職種か

「マーケティングを極めたい」「データ分析の仕事がしたい」のように、やりたいことが職種の形をしているなら、それは転職市場で探すほうが早く見つかります。福岡でもIT・企画系の求人は増えており、職種軸の希望は転職で叶えやすくなっています。

一方、「この地域のこの問題を解決したい」「こういう店をやりたい」のように、やりたいことが事業の形をしているなら、それを任せてくれる会社を探すより、自分で始めるほうが早いことが多いです。

中間の道もあります。やりたい事業に近いスタートアップに転職して、中で立ち上げを経験する。福岡はスタートアップの集積が進んでいるので、この「転職で起業の予行演習をする」選択肢が取りやすい街です(福岡の起業環境はなぜ東京じゃなかったのかにまとめています)。事業がやりたいのか、事業を作る仕事がやりたいのか。この区別も、書き出してみると案外はっきりします。

質問3: 収入が不安定な期間に耐えられる家計か

ここからは感情ではなく数字の質問です。起業した場合、軌道に乗るまで収入は不安定になります。確認すべきは3点。生活費の6ヶ月〜1年分の蓄えがあるか。配偶者の収入で当面の家計が回るか。住宅ローンや教育費の山場と重なっていないか。

耐えられない家計で起業すると、事業の判断が「正しいか」ではなく「今月の入金があるか」で歪みます。いま蓄えが足りないなら、それは起業をやめる理由ではなく、時期をずらす理由です。会社員のうちに副業で小さく検証を始め、貯蓄と実績を並行して積む。この移行設計の具体的な手順は独立したい会社員がまずやることで詳しく解説しています。

転職側にも家計の質問はあります。転職直後は賞与が満額出ない、試用期間がある、業種を替えるなら一時的な年収ダウンがある。転職=収入安定と思い込まず、初年度の収入カーブを確認してから動くこと。福岡の年収相場は30代年収データが目安になります。

質問4: 失敗したときの「戻り道」を描けるか

転職の失敗は、また転職すれば修正できます。職歴は増えますが、致命傷にはなりにくい。一方、起業の失敗からの復帰は、準備の仕方で難易度が大きく変わります。

法人を畳んだ後に会社員へ戻る人は珍しくありませんし、起業経験を評価する会社も増えています。ただしそれは「何をやって、何を学んだか」を語れる場合です。戻り道を描くというのは、弱気になることではなく、撤退ラインをあらかじめ決めておくことです。「2年で月商がこの水準に届かなければ畳んで再就職する」と決めてから始める人のほうが、期間中は思い切った挑戦ができます。撤退ラインのない挑戦は、勇敢なのではなく、ずるずると資金と時間を失う設計です。

この質問への答え方で、自分のリスク許容度も見えてきます。撤退ラインを考えただけで気が重くなる人は、いまは起業のタイミングではないかもしれません。それは能力の問題ではなく、時期と条件の問題です。

質問5: どちらの5年後に、より納得できるか

最後は損得を離れます。転職して5年経った自分と、起業して5年経った自分。うまくいったケースではなく、そこそこだったケースを想像してください。

転職先でそこそこの評価で働いている5年後と、事業がそこそこの規模で回っている5年後。どちらの自分により納得できるかは、人によってはっきり分かれます。安定した組織の中で専門性を深めることに充実を感じる人もいれば、小さくても自分の裁量で完結する世界に充実を感じる人もいます。ここに正解はなく、あるのは自分の性分だけです。

この質問だけは、論理で答えが出ません。だからこそ最後に置いています。質問1〜4で条件の整理をしたうえで、最後は性分に聞く。順番を逆にして性分だけで決めると、条件の壁に後から突き当たります。

第三の道——「社内」を再設計するという選択肢

転職か起業かの二択で考えはじめると見落とすのが、いまの会社の中での再設計です。二択のどちらにも決め手がなかった人は、一度この選択肢を検討する価値があります。

社内での再設計には、異動希望、新規事業への手挙げ、社内公募、働き方の変更(リモート・時短・副業申請)などがあります。特に「雇われ方への不満が主だが、家計がまだ起業に耐えない」人にとって、社内で裁量の大きい仕事を取りに行きながら、副業で検証を進める組み合わせは、リスクを抑えた移行戦略になります。会社は辞める場所である前に、給料をもらいながら学べる場所です。使い切ってから出ても遅くありません。

逆に、社内の手をすべて打った経験は、転職でも起業でも効きます。転職面接では「課題に向き合った人」として語れる材料になり、起業なら「組織の中で物事を動かす力」そのものが顧客開拓の力になります。二択の前の一手として、社内に残っている打ち手を書き出してみてください。

性格と向き不向き——自己診断の4項目

質問5で「性分」に触れましたが、もう少し分解できます。起業家に必要とされる資質の中で、後から身につけにくいものは実はそれほど多くありません。営業も経理も学べます。学びにくく、向き不向きが出やすいのは次の4項目です。

第一に、不確実さへの耐性。来月の収入が読めない状態で眠れるか。第二に、自分で決めることへの欲求。決められた枠の中の自由と、枠ごと自分で決める自由の、どちらが欲しいか。第三に、孤独耐性。起業初期は、相談相手も承認してくれる上司もいません。第四に、回復の速さ。断られ、失敗し、それでも翌朝動けるか。

4つとも強い必要はありません。弱い項目は、共同創業者や外部の相談相手で補えます。ただし4つすべてが弱いと自覚するなら、起業は「良い職業選択」ではない可能性が高い。その場合、転職や社内再設計で裁量を増やす方向が、同じ欲求をより低いリスクで満たします。向いていないと知ることは、負けではなく診断です。

よくある質問

Q. 転職と起業、両方の準備を並行してもいいですか?

構いません。むしろ合理的です。転職活動で市場価値を確かめながら、副業で事業の検証を進める。どちらかの手応えが先に閾値を越えたほうに進む、という設計は、決め打ちよりリスクが低い進め方です。ただし現職・転職活動・副業の3つを回すことになるので、期限を切らないと消耗します。

Q. 年齢によって答えは変わりますか?

条件は変わりますが、質問は変わりません。20代は失敗の回復力が高いぶん起業の試行コストが低く、40代・50代は蓄えと経験・人脈という別の武器があります。「若くないと起業できない」も「歳を取ったら転職できない」も、どちらも思い込みです(40代の転職50代の転職も参照)。

Q. 「起業したいがアイデアがない」場合はどうすれば?

アイデア探しから始めないでください。これまでの仕事で人に頼まれてきたことの棚卸しが先です。それでも事業の種が見つからない場合は、後継者を探している既存事業を引き継ぐ事業承継という選択肢もあります。ゼロから作る以外の起業も存在します。

Q. 迷っていること自体、まだ動くべきではないサインですか?

いいえ。迷いは情報不足のサインであって、資格がないサインではありません。5つの質問に答えられない箇所が、集めるべき情報の場所です。全部に答えられるまで動けないわけでもなく、質問1と3(不満の正体と家計)だけ固まれば、小さな検証は始められます。

Q. どちらも数字で比べられますか?

比べられます。転職側は自分の業種・年代・企業規模での相場(年収チェッカー)、起業側は生活費から逆算した必要売上(ライフプラン)。福岡市の新設法人は2016年2,468社→2025年3,577社と約45%増えており、起業する人は確実に増えています(福岡市 会社設立データ)。ただしこれは挑戦者の数で、成功率ではありません。

迷っている段階の相談先を持つ

5つの質問に答えてもまだ決められない場合、それは優柔不断なのではなく、一人で答えを出す種類の問いではないからです。

転職エージェントに相談すれば転職を勧められ、創業支援の窓口に行けば起業を勧められます。相談する相手の立場によって、返ってくる答えは変わります。だからこの問いは、どちらを勧める動機もない相手と話すのが一番です。CAREER BASE のキャリア相談は、転職担当(人材業界出身の寺木)と起業担当(現役経営者の久保)の両方がいて、どちらも勧めない前提で話せます。「まだどちらとも決めていない」段階からどうぞ。

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