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40代転職で年収が下がるとき。許容ラインの決め方

寺木 健人
監修:寺木 健人転職・キャリア担当・人材業界出身

40代の転職で、現職より低い年収を提示される。これは珍しいことではなく、勤続20年の給与には年功的な積み上げが含まれる以上、市場の値付けが現職を下回るのは構造的に起こります。

問題は、その提示をどう判断するかです。「下がるなら見送り」と反射的に断ると選択肢が消え、「40代だから仕方ない」と無条件に飲むと後悔します。この記事では、年収ダウンの提示を判断するための計算方法と、許容ラインの決め方、そして「下げてはいけないケース」を整理します。

このコラムでわかること
  1. ステップ1: 額面ではなく「実質年収」で比べる
  2. ステップ2: 「単年」ではなく「5年・生涯」で比べる
  3. ステップ3: 家計の「耐久ライン」を先に引く
  4. 下げてはいけない3つのケース
  5. よくある質問
  6. 「下がるか」ではなく「何と引き換えか」

ステップ1: 額面ではなく「実質年収」で比べる

最初にやるべきは、現職とオファーを同じ物差しに載せ直すことです。額面の年収には、構造の違いが隠れています。

比べるべき項目は、①基本給と賞与の比率(賞与は業績変動リスクを含む。基本給比率が高いほうが安定価値が高い)、②みなし残業の有無と時間数(額面が同じでも労働時間あたり単価が違う)、③退職金・企業年金の有無(年数十万円分の価値差になり得る)、④昇給とモデルカーブ(3年後・5年後にどこにいるか)、⑤通勤・転勤の有無(時間と生活コスト)。

たとえば「現職550万(残業代込み・退職金なし)」と「オファー500万(みなし残業なし・退職金あり・賞与安定)」なら、実質は逆転している可能性が十分あります。額面の差50万円に反応する前に、この分解表を一度作る——それだけで判断の質が変わります。

ステップ2: 「単年」ではなく「5年・生涯」で比べる

40代の転職は、残り20年前後の働き方を決める選択です。単年の比較は視野が狭すぎます。

見るべきは3つの曲線です。①現職に残った場合のカーブ(今後の昇給・役職の現実的な見込み。過去数年の実績から冷静に外挿する)、②オファー先のカーブ(採用時の役割から3〜5年でどこへ行けるか。面接で聞いてよい質問です)、③現職に残った場合のリスク(会社の業績・事業の将来性・自分のポジションの持続性)。

初年度100万円下がっても、3年で役職が付いて逆転するオファーはあります。逆に、現職維持でも会社の先行きが暗ければ、その550万円は5年後に存在しないかもしれない。年収ダウンの本質的な問いは「いくら下がるか」ではなく「5年後にどちらの絵が良いか」です。

POINT

判断の手順は3つ——①額面でなく実質(基本給比率・退職金・残業構造)で比べ、②単年でなく5年・生涯カーブで比べ、③家計の耐久ラインを先に数字で引く。この3つを経た「下がる転職」は妥協ではなく投資になる。

ステップ3: 家計の「耐久ライン」を先に引く

理屈で納得しても、家計が回らなければ意味がありません。判断の前に、自分の家計の耐久ラインを数字で引いてください。

固定費(住宅ローン・保険・通信)、教育費のピーク時期(40代は子どもの進学と重なりやすい)、老後資金の積み立てペース。これらを並べて、「年収がいくらまでなら、生活水準と将来の積み立てを維持できるか」の下限を出す。この下限が、感情ではない許容ラインです(試算はライフプランシミュレーターが使えます)。

許容ラインより上のオファーは、ステップ1・2の比較で判断する。下回るオファーは、どんなに魅力的でも原則見送る——ラインを先に引いておくと、面接の場の雰囲気や焦りに流されずに済みます。なお、福岡の40代の平均年収は前半約472万円・後半約509万円(賃金構造基本統計調査2023年)。オファーがこのカーブに対してどの位置かも、相場感の物差しになります(賃金チェッカーで条件別に確認できます)。

下げてはいけない3つのケース

年収ダウンが合理的な投資になる場合と、単なる損になる場合の見分けも重要です。次のケースでは、下げる判断に慎重になってください。

①下げる理由が「焦り」のとき。長引く転職活動の消耗から「拾ってくれるなら」と基準を下げるのは、最も後悔しやすいパターンです。焦りは判断ではなく状態です(40代転職の厳しさで書いたとおり、40代は応募先の絞り込みで消耗を減らせます)。②カーブの説明がないとき。「最初は下がるが、その後上がる」という話に、昇給・登用の具体的な仕組みの裏付けがない場合、それはただの口約束です。③現職の不満から逃げるだけのとき。年収を下げてでも逃げたい環境なら、まず不満の正体の切り分けを(逃げの見極め)。環境要因なら転職は正解ですが、それでも「下げ幅の交渉」を放棄する理由にはなりません。

逆に、下げる価値があるのは、役割が上がる(プレイヤー→マネジメント)、市場価値が上がる経験が積める(成長業界・新領域)、働き方の質が上がる(残業・通勤・裁量)のいずれかが明確な場合です。この場合の年収ダウンは、5年後の自分への投資として合理化できます。

よくある質問

Q. 何割までの年収ダウンなら許容範囲ですか?

一般論の「◯割まで」は存在しません。家計の耐久ライン(ステップ3)が人によってまったく違うからです。目安が欲しい場合は、「実質年収で1割以内、かつ5年カーブで逆転の根拠がある」なら前向きに検討する価値がある、というのが実務的な感覚です。

Q. 年収交渉はしてもいいのでしょうか?

すべきです。40代のオファーは職務と役割への値付けなので、根拠(現職の実質年収の分解、担う役割の範囲)を示した交渉は普通に受け付けられます。感情や生活事情ではなく、役割と実績を根拠にするのがコツです。

Q. 家族にどう説明すればいいですか?

「年収が下がる」とだけ伝えると反対されます。この記事のステップ1〜3の表——実質比較・5年カーブ・家計の耐久ライン——をそのまま見せて話すのが、最も建設的な進め方です。数字の共有は、家族を判定者から味方に変えます。

Q. 下がった年収は、その後の転職でも基準になってしまいますか?

前職年収は参考にされますが、決定要因は直近の役割と実績です。「下げて入って役割を上げ、次で取り返す」は40代でも機能するキャリア戦略です。逆に言えば、下げて入る会社では役割が上がる見込みがあることが重要になります。

「下がるか」ではなく「何と引き換えか」

40代転職の年収ダウンは、それ自体では良いとも悪いとも言えません。実質で比べ、5年で比べ、家計のラインと照らして、何と引き換えに下げるのかが説明できるなら、それは妥協ではなく設計です。

オファーの分解表づくりも、5年カーブの見立ても、無料相談で一緒にできます。オファーを受ける前の「数字の点検」にこそ、使ってください。

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